「 反日を手段に支持率を高め生き延びる“白雪姫”政治家 それを受容する韓国の現実 」
『週刊ダイヤモンド』 2005年8月13・20日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 604
韓国の盧武鉉大統領がまたもや新たな改革を提案し、混乱を来している。大統領は7月28日、与党「開かれたウリ党」の党員にあてて、200字詰め原稿用紙でざっと50枚に上る長い“手紙”を発表した。まず、自分が韓国政治における負の要素、地域感情の対立を解消することに努力してきたことを強調し、地域感情対立を解消するために野党ハンナラ党に連立を申し入れている。大統領は、地域間対立を解消し連立を確立するには、選挙区制度の改革が必要だと説く。現在、韓国は243議席の小選挙区制度を軸に、比例に56議席を割り当てているが、これを中選挙区もしくは大選挙区制に改めたいというわけだ。
選挙区制度の改革にハンナラ党が協力してくれれば、見返りに大統領の権限を同党に渡してもよいとする驚きの提案も行った。盧武鉉大統領は下野するつもりか、と思ってしまう提案だが、韓国の人びとは大統領提案に取り合わない。彼らは盧武鉉大統領を“白雪姫”と呼ぶ。韓国語の発音が“百の方向に”という言葉と同じ意味で、それが転じて“はしゃぎ過ぎの恐怖の口”という意味に使われているのだ。今回もまた大統領の“白雪姫現象”が始まったわけだが、大統領の主張はどれを見てもおかしい。
たとえば、地域感情の対立の解消は確かに必要だが、それが小選挙区制から中または大選挙区制によって解消されるという合理的な理由はない。むしろ大統領のこれまでの政治は、過去史の追及や見直しによって、旧保守勢力の追い落としを図り、政治的にはどちらかというと恵まれなかった一部地域の怨念を晴らす結果をもたらしている。それはまさしく地域間の対立をあおる効果を有するものだ。
野党ハンナラ党への連立政権申し入れも、単なる言葉遊びかと思うほど具体性に欠ける。連立には、共通の政策基盤が必要だが、大統領の提案した選挙区制度改革が具体的に説明されているわけではない。野党に渡すと言った大統領権限が実際、何を指すのかも不明だ。
ハンナラ党は即時、このあいまいな申し入れを拒否、「朝鮮日報」「東亜日報」は社説やコラムで厳しい批判を展開した。
野党に大統領権限を渡してもよいなどと、気は確かか、と思われるような発言をする盧武鉉大統領の政策は、およそすべてと言ってよいほどにうまくいってはいない。北朝鮮政策では、北朝鮮の核保有さえ“理解出来る”として前向きに受け止め、核放棄の言質も取れないうちに200万キロワットの電力供給を申し入れ、皮肉にも、当の北朝鮮から断られた。重要な同盟相手、米国との関係も問題山積で、まったく信頼されていない。外務省の谷内正太郎事務次官が、「米国は韓国と重要情報を共有することを懸念している」と発言したのは周知のとおりだ。加えて、経済は非常に悪く失業率も高い。そのような状況下で、大統領は定期的に新たな改革を提案しては国民の目をそらすのだ。
2002年5月まで盧武鉉大統領の政策諮問役を務めた柳鍾迴戟iユ・ジョンピル)氏が、「月刊朝鮮」8月号で、盧武鉉大統領を理解するキーワードは3つ、責任転嫁、自己を弱者と偽装、選択的な忘却だと述べている。加えて盧武鉉大統領は「大乱大治」を心情とするとも指摘した。大きな混乱のなかで大きな政治を行う、状況が不利になれば、状況を混乱させて大きな勝負に出るという意味である。
韓国の国民にとっては大迷惑だ。余波は日本にも確実に及ぶ。20%台前半で支持率が低迷し始めた大統領は、支持率回復の機会を狙っており、反日はすべてに勝る有効な手段だからだ。反日で支持率を高めて生き延びる政治家、それを受容するのが、残念ながら現在の韓国である。